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耳毛はもう抜かない!トリミングの新常識

カット犬種のトリミング行程では耳毛処理は外せません。しかし耳毛の処理は痛みを伴うこともあり、苦手な犬も多く、トリマーにとっても憂鬱な作業の一つです。

とはいえ耳毛を処理しないままにしておくと、外耳炎や悪臭といったトラブルにつながりかねません。

しかし、ここ最近ではこの耳毛処理の方法が徐々に見直されつつあります。

りん

今回は新たな耳毛処理法である「耳毛カット・耳毛切り」に注目🎵

耳毛は「抜く」から「切る」時代へ

耳毛の処理といえば、滑り止めのパウダーを耳に入れ、カンシで耳毛をつまみ、勢いよく引き抜くという手法が定番です。トリミング専門学校の多くでもこの手法で生徒を指導しています。

この処理方法は数十年前、日本にトリミングという文化が定着し始めた当時から変わらず続いている手法です。昔ながらの方法とはいえ、必ずしもこの手法が正しい、犬にとって負担が少ない最良の方法ではありません。

POINT
数十年前と比べてペットの暮らしは大きく変わりました。医療も発達し、犬のストレス軽減に目を向けることも当たり前になりつつあります。このように犬の生活に対する価値観や環境が変わる中で、トリミング手法についても様々な見直しがされています。その1つが耳毛を抜かずに、切るという方法です。

「抜く」ことで起こるたくさんのデメリット

耳毛を抜かずに切る手法を取り入れるトリマーが増えてきている背景として、耳毛を抜くと下記のような問題に繋がりやすくなるというデメリットがあるからです。

  1. 耳に痛みを与えることで犬のトラウマにつながる
  2. 外耳炎や炎症を起こしている患部にさらに刺激を与えることで症状の悪化をまねく
  3. 健康な状態の毛穴に過度な刺激を与えることで傷ができ、雑菌の増殖や化膿のリスクがある

犬の耳内部は感覚神経が張り巡らされているので、想像以上に敏感です。

そのような部位に金属製のカンシが触れ、毛を引き抜くことで強い刺激が加わり、なおかつ犬の安全のために強く耳や頭部を抑えたりすれば様々なデメリットをもたらします。

耳へのトラウマが噛みつき、威嚇を引き起こします

耳を触られることに苦手意識やトラウマを持った犬は、トリミングサロンだけでなく、自宅でも様々な問題を抱えるようになります。

POINT
例えば首輪やハーネスを着脱する時、飼い主が撫でようとした時、外耳炎などの治療のために点耳薬をつけるときなど、日常生活の些細な場面で愛犬が激しく威嚇や攻撃をするようになることがあります。どんなに家族が優しく、ゆっくりと愛犬に近づいても犬は本能から防衛本能が働き、耳に痛みを加えられるのではないかと警戒心を抱いてしまうのです。
これはトラウマから起こる条件反射で、残念ながらしつけでは解消できません。

ベテラントリマー

健康管理のつもりがトラウマの上書きに

このような問題を抱えているにも関わらず、毎月トリミングサロンで耳毛抜きの処理を続けた場合、当然家族と愛犬の関係性は悪化の一途をたどるでしょう。

トリマーにとって耳内部の被毛や汚れを取り除くことは、健康管理に欠かせない大切な手順です。しかし実はトリマーに見えない場所でこのような問題が起こっていることも知っておいてください。

スタッフ全員で「処理法」の統一が大事

トリミングの手法はそれぞれの経験や習慣によって上達し、安定してゆくものです。長年繰り返してきた手法を変えることは決して簡単なことではありません。

その上、耳毛の処理は「切る」より「抜く」方が達成感もあります。

カンシで被毛を抜く場合、根本から除去できるので処理後は耳の地肌が見え、汚れの拭き取りもスムーズです。しかし切る場合、根本に数㎜の被毛が残り、この残った被毛に耳の汚れが付着します。仕上がりを見比べると、断然抜く処理の方が綺麗に仕上がっているように思えます。

りん

しかし、例え出来栄えが美しくても、犬にとってデメリットがある以上は手法の見直しも必要です。

手法を変更する場合はスタッフ全員の共通ルールにしよう

カットの手順やカットラインの作り方はトリマーそれぞれの個性でもあり、本人にある程度は任されるものです。しかし、トリマー個々のセンスを求められない部位においては、トリミングサロンの統一ルールを設けましょう。

具体的には下記の通りです。

  • 耳毛の処理方法
  • 足裏のカット方法
  • 肛門周りのバリカンの有無
  • お腹バリカンの範囲
  • ひげカットの有無

飼い主にとってこれらの処理はいつでもどのトリマーが担当しても同じ仕上がり、内容であるべきといえます。

耳毛の処理方法も担当するトリマーごとに手法や出来栄えが異なるようでは、当然トリミングサロンへの不信感が募るでしょう。

お客様に事前の変更を伝え、新たな手法と変更理由を案内しよう

これまで実施していた耳毛を抜く手法から切る手法へ切り替える場合は、事前に下記のポイントをまとめて必ずお客様に伝えるようにしましょう。

  1. 新たな手法について
  2. なぜ手法を切り替えるのか?その理由
  3. いつから切り替わるのか?
  4. 以前の手法を希望する場合は対応可能か?

またお客様に伝える方法は下記を参考にしてみましょう。

  • 店内に掲示物を張り出す
  • チラシを手渡しする
  • メルマガやSNSで告知する
  • 受付時に口頭で伝える

この際、伝え済みかどうかの記録を個々のお客様カルテに記しておくと、スタッフ同士の情報共有が徹底できます。

注意
お客様の中には以前に比べて仕上がりのスッキリ感が無いと感じ、「抜くのではなく切る」という手法に不快感を示される方もいます。だからこそ、切ることでのメリットや抜くことでのデメリットもしっかりお伝えすることが大切です。

耳毛を「切る」ために必要なアイテム

トリミングの手法が変わるということは、当然使用するアイテムも変わります。耳毛を切る際に必要なアイテムは主に下記の3点です。

  1. 耳毛切り専用ハサミ
  2. イヤーローション
  3. コットン
注意
耳内部は非常に繊細で皮膚がデリケートですから、わずかな傷も大量出血と痛みにつながります。必ずペットの耳毛切り専用バサミを用いましょう。また、耳内部の通気性向上のために、耳毛はしっかりと根元から切りますが、耳内部が汚れている場合は、あらかじめ耳掃除を済ませ、汚れを取り除き、切るべき被毛の根元をしっかり目視で確認できる状態にしてから切り進めてください。
カンシと違い、ハサミが直接耳内部に触れるので、中には条件反射的に暴れる犬もいますが、安全を第一に考えて、無理強いをしないよう心がけましょう❗️

ベテラントリマー

参考 皮膚を傷つけない耳毛切りハサミAmazon

嫌がるときはマッサージでごまかすと効果的

耳毛カットをする際、犬の多くは耳内部でハサミが動く音や金属の感触に対して条件反射的に嫌がることがあります。この際、強く保定したり押さえ付けるのではなく、一旦耳からハサミを遠ざけ、耳を軽くマッサージしてあげてください。

犬に「ただ耳に触れているだけ、危険ではない」ということを認識させましょう。

この方法は、手間はかかりますが犬のトラウマ回避に効果的ですからぜひ取り入れてみてください🎵

ベテラントリマー

新人トリマーさんは十分注意しよう

耳毛は抜くよりも切る方が高度な技術を要求されます。刃物を犬の耳の中に入れるわけですので、些細な行動で耳内部を切ってしまうことは容易に想像できます。

まだ自分の技術や経験に不安がある場合、怖い場合は素直に先輩トリマーにやってもらうようにしましょう。自分でやる場合は、時間を掛けて作業しても良い時や先輩が付いてる時に行い、常に犬の安全を最優先に考えて業務を遂行してくださいね。

まとめ

トリミングという技術職の環境において、これまでの手法を変えることや全員で統一することは決して簡単なことではありません。

しかし、トリマーである以上、犬のことやお客様のことを最優先に考え、新たな手法や情報を積極的に取り入れることも大切です。